時間というベクトル『タイムスケープ』

地球が危機を迎えた1998年から1962年に向けて通信を送り、その危機の原因を絶ってもらおうとする科学者たちの物語。アーサー・C・クラークの後継者といわれるグレゴリイ・ベンフォードの本格SF。
ベンフォードの作品の中でも科学的な部分をかなり綿密に描き、知的刺激に溢れている。光より速く進む物質、それに乗せて送られるメッセージ、それが過去を変えることによって何が起きるのか… タイム・マシーンという古典的なSFのモチーフを夢物語ではない形で描いたかなり説得力のある作品である。
四次元空間では時間がもうひとつの軸になるということはよく知られているが、タイムトリップの原理的な説明はあまり知られていないかもしれない。しかし、わたしが聞いたり考えたりしたところでは、過去へのタイムスリップが可能だとしてもそれがやってきた現在を帰る事はできないというのが大原則である。それは、時間というのが一本の線ではなく、現在という時間で束ねられたベクトルの束であるということから来ている。現在を経由して過去から未来へと進むの流れは無数にあり、わたしが経験した過去へとタイムスリップしても、そのタイムスリップをした時点で、その時間の流れに外力が加わることになって、同じ未来にはたどり着かないということになるのではないかと。
となると、同時に複数の「わたし」が存在することになるのか、ということになるのだが、異なる時間の流れであればそれは同時ということにはならない。それはいわば三次元の空間を点とした場合に平面にプロットすることができる五次元空間のそれぞれの点が異なっているのと同じことではないか。今の私と1秒後の私、10年前の私、異なる時間の流れにいる私、そのどれもがこの五次元空間の中では等価になるという…
というようなことが、この作品からは読み取れて、科学的好奇心を満たしてくれる。純粋なエンターテインメントとしては少々煩雑すぎる感はあるが、SFはやはりこれくらいきっちりしていないと。

外国に自由を求めた時代もあった『つづりかた巴里』

高峰秀子が20代の頃、半年間パリに滞在した時に書いたエッセイ「巴里ひとりある記」を復刊し、それにその後のつれづれなるエッセイを追加したエッセイ集。
「巴里ひとりある記」は高峰秀子が26歳のとき、女優という職業に疲れ、家を売り払って旅費にあて、何もかもを捨てて身軽になるために行った巴里の滞在記で、彼女の初めてのエッセイである。彼女自身も書いてある通り、文章も拙く、構成もまちまちで、パリでの生活を生き生きと描き出すということには成功していないけれど、今から50年ほど前、パリに逃げ出したひとりの人間としての高峰秀子の心情はしっかりと伝わってくる。
そして、その後のエッセイからはパリ滞在と結婚とを経て自分問うものを新たに獲得することが出来た彼女の姿が浮かび上がってくる。
そのなかに「こころの友たち」と題された旅先で出会った人々について書いたエッセイがある。その中に「顔」という非常に短いエッセイがあるのだが、そこに「それにしても、何しろ映画界に百年もいたので、この顔も大勢の写真屋さんにナメるごとく撮られつくして、私にはもう顔がなくなったのは悲しいことである」という非常に印象的な文がある。好きではない女優という職業を50年も続けた彼女の心情がここには刻まれている。女優としては大成したが、その陰には本当にたくさんのいやなことがあった。
「顔がない自分」、自分をそのように見てしまうということはもちろんすごく不幸なことだ。それでも彼女はそれに負けず、自分なりの幸福を築いて行った。それはすごいことだと思うが、控えめであることを美徳とする彼女は決してそんな事は言わない。ただひっそりと、日常のことをあーでもない、こーでもないと書き綴るのだ。私はもちろんスクリーンの上の高峰秀子も好きだが、そのようにひっそりと暮らしている松山秀子さんの方を応援したい。 http://amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4267049505/hibikoreeiga-22

自作インドカリー×2

久しぶりの自作カレーです。今回は張り切って2皿です。

いつものカリー豪華版


1皿目はいつものチキンカレーです。いつもの具は特売品の手羽元ですが、今回は相方の誕生日だったので骨付きモモ肉を大胆に煮込みました。イメージとしては、ナイルレストランのムルギーランチです。大量のマッシュポテトは添えられていませんが、骨付きモモ肉丸ごと一本を真似してみました。ご飯も今回は「最高級インディカ米」と書いてあったおいしいタイ米を購入。いわゆるジャスミン・ライスというやつで炊いてる間から部屋中にものすごくいい匂いが漂いました。
せっかくなので、私のテキトーレシピをのせておきます。分量は4人分くらい。

  1. 鶏肉(500〜700gくらい)はフォークで穴を開け、軽く塩をしてヨーグルト(250gくらい)につける。
  2. ナベに大目の油とクミンシード(大1/2)を入れ、中火にかける。
  3. クミンがプチプチ言ってきたら、ニンニク(2片)、ショウガ(親指大)のみじん切り、たまねぎ(中3個を長細い感じのみじん切りに)をどさっと入れる。
  4. たまねぎがカレーと同じ色になるまで*1しつこく炒める。
  5. スパイスを入れ、よく混ぜる。
  6. 鶏肉をヨーグルトごと入れ、よく混ぜる。
  7. ピューレ状にしたトマト(中3個)をいれ、沸騰してきたら塩少々とコンソメを入れる。
  8. 圧力鍋なら加圧して10分、普通の鍋なら30分から1時間ほど煮込む。
  9. 仕上げにガラムマサラ(大1〜3)を入れ、ざっくり混ぜてひと煮立ちさせたら出来上がり。

です。

初挑戦砂肝マサラ


もう1品は「砂肝とナスのマサラ」。前に作った砂肝カレーがおいしかったし、むかし麹町のアジャンタで食べた砂肝のマサラが絶品だったので、COOKPADで見つけたナスのカレーのレシピを参考に、砂肝も投入してマサラを作ってみました。レシピによると現地並みの辛さということで、確かに作りたてはかなりスパイシーでしたが、味が馴染んでくるにつれ、気持ちよい辛さに。これはかなりのヒット作でした。たまねぎを炒める必要がないから比較的簡単に出来るし、オススメです。
この砂肝のカレーorマサラというもの、なかなかインドカレーやでも見かけないのですが、アジャンタが南インド料理の店だということを考えると、南インド料理なのでしょう。日本のインド料理屋には北インド料理が多いそうなので、それでなかなか見かけないのだと思います。
でも、自分で作れるなら、それでよし。
今度はナン作りに挑戦かなー…

*1:こってりとしたこげ茶色のカレーならこげ茶色になるまで、あっさりしたきつね色のカレーならきつね色まで

旅行記だけど夫婦論『旅は道づれツタンカーメン』

高峰秀子松山善三の夫婦が外国旅行の旅日記を各シリーズの第3弾。夫婦で出かけるたびだけに夫婦の話が多いのは当たり前といえば当たり前だが、今回は出発前から「夫婦とは…」という話が出てきて、旅日記というよりは夫婦論という色彩が濃い。
この本を読みながら、旅日記というのは難しいと思った。ただただ旅の想い出を綴ったところで読者にはなかなか伝わらないし、西原理恵子の『鳥頭紀行』のようにそうそう面白いエピソードばかりが起きるわけでもない。
だからここでは夫婦論なのだ。夫婦で外国を旅をすることは、いくら他にも人がいるとはいえ、夫婦の関係を改めて見つめるきっかけになるものなのだろう。何故何十年も一緒にいるのか、夫婦であるということはどういうことか。そんなことを考えながらエジプトを旅し、エジプトの古代の王様に想いを馳せ、現在のエジプト人のことも考えてみる。
読んでもエジプトがどんなところかはちっともわからなかったけれど、この夫婦がお互いを尊重し、お互いを頼り、そして支えあっているのだろいうことはわかった。
やっぱり、秀子さんの文章の部分のほうばかり読んでしまうけれど…

イサム・ノグチ展@東京都現代美術館


天気のよい土曜日、イサム・ノグチ展に行く。もともと行きたかったのだけれど、J-WAVEでチケットが当たったので、これ幸いとばかりに。都現美は久しぶり、船越桂以来だろうか。
イサム・ノグチは好きだ。ドウス昌代さんが書いた評伝(ISBN:406203235X)も読んだし、香川のイサム・ノグチ庭園美術館にも行った。評伝を読んで、作品の写真なんかを観ていた時点では「いいねえ」と思っていただけだったけれど、香川のアトリエで石の圧倒的な存在感に揺り動かされた。今回は、その香川のアトリエで見た「エナジーヴォイド」が来ていたのだが、吹き抜けの広大な空間に設置された「エナジーヴォイド」は見ていて面白いけれど、香川の古民家の狭く薄暗い空間で感じられたような圧倒的な力やエネルギーを感じる事は出来なかった。
イサム・ノグチの彫刻は、見ている人がどうしても触ってみたくなる彫刻である。それはおそらくその石の曲面のつるりとした感じが魅惑的だからなのだろう。だから、触ることの出来ない展覧会というのはすごくフラストレーションがたまる。展示室のひとつにあった「砥石」という作品も素晴らしいと思ったけれど、やはり触って感触を確かめてみないと本当のよさはわからないのではないかと思った。
そんなフラストレーションを解消するためか、中庭にはノグチが作った2つの遊具があった。そして、年甲斐もなくそれで遊んでみると、やはりノグチの作品は触れるものだと実感した。触れたときの感触と、そこに寄りかかったり、入り込んだりしたときに見えてくる風景、それらも含めてが作品であり、それだから季節や天気によって感じも変わり、何度も出会いたく作品だと感じられるのではないだろうか。
ああ、モエレ沼公園に行きたいなー…

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