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外国に自由を求めた時代もあった『つづりかた巴里』

高峰秀子が20代の頃、半年間パリに滞在した時に書いたエッセイ「巴里ひとりある記」を復刊し、それにその後のつれづれなるエッセイを追加したエッセイ集。 「巴里ひとりある記」は高峰秀子が26歳のとき、女優という職業に疲れ、家を売り払って旅費にあて、何…

旅行記だけど夫婦論『旅は道づれツタンカーメン』

高峰秀子と松山善三の夫婦が外国旅行の旅日記を各シリーズの第3弾。夫婦で出かけるたびだけに夫婦の話が多いのは当たり前といえば当たり前だが、今回は出発前から「夫婦とは…」という話が出てきて、旅日記というよりは夫婦論という色彩が濃い。 この本を読み…

男はロマン、女は…『旅は道づれガンダーラ』

女優・高峰秀子とその夫・ドッコイ松山善三が井上靖らにほいほいとついて行ったアフガニスタン・パキスタンの旅の旅行記。善三パートが7割、秀子パートが3割という感じで、大体交互に書いている。 夫の善三さんのほうが脚本家であり映画監督であるわけだか…

ものから映画を見る『映画の昭和雑貨店』

川本三郎というひとはとても面白く、とても変わった人だ。本当にどうでもいいことにとことんこだわり、それで面白い本を書いてしまう。この本もその例に漏れず、懐かしい“モノ”から映画を見て行く。これはもともとは雑誌サライの連載で、単行本も全部で5冊…

機械という他者との対決『大いなる天上の河』

グレゴリイ・ベンフォードによる外宇宙を舞台にしたSF作品。場所は明らかではないが、人間と機械が対立する世界、人間は機械の勢力に圧され、根拠地を破壊され、さすらうことを運命づけられるようになってしまった。その集団の中のひとりキリーンが語り手…

外から日本を見る『敗北を抱きしめて』

戦後60年を考え、靖国神社へも行った締めくくりという感じで読んだこの本。日本研究者のジョン・ダワーが大衆を研究することによって得た戦争と戦後の日本人の新たな一面をわかりやすく描いている。 ふーんと思うことも多いし、勉強させられることも多い。…

何たること?『ヌーヤルバーガーなんたることだ』

沖縄おもしろ情報が書いてある本かと思って読み始める。前半は著者が友達と思いつきではじめた沖縄長期滞在のドタバタ記。大家さんのキャラクターなどが面白くて、沖縄という場所の暖かさや面白さは大変よく伝わる。しかし、筆者は結局何をしているわけでも…

物語の源泉としての死『グラスホッパー』

鯨、蝉、槿という奇妙な名前、自殺させ屋、殺し屋、押し屋という奇妙な職業。それらに共通するのは人間ではないものの名前と、人を死に導く職業である。この物語はずっと死と隣接し続けて、まるでそこの見えない崖の淵を歩き続けているかのような緊張感に覆…

生々しい心の傷跡『砕かれた神』

これは少年兵として海軍に志願し、ミッドウェー、マリアナ、レイテ沖の海鮮を経験し、ほとんど生存者のいなかった戦艦武蔵から奇跡的に生還し、復員した若者の戦後のおよそ半年間を綴った日記である。そこに描かれているのは、百姓としての日々の生活とやる…

原爆へのまなざし『新藤兼人・原爆を語る』

この本は映画監督新藤兼人が、自身が作りあるいは作ろうとしている原爆にまつわる映画について語った本である。最初に来るのが『原爆の子』、この作品は1952年に撮られた、事実上の日本初の原爆映画であった。その撮影と資金繰りに関する苦労話がその中心に…

漫画のスピード感『陽気なギャングが地球を回す』

新書版で出ているだけにかなりライトな読み心地である。相変わらずキャラクター作りが非常にうまく、特に成瀬のキャラクターは秀逸だ。そして、様々な視点からひとつの物語に切り込んでいく語り方もスピード感があって面白い。伊坂幸太郎はサスペンスを書き…

スバ食いてぇなぁ…『沖縄やぎ地獄』

筆者は沖縄といえば「ビーチ、リゾート…」などということを書いているが、私にとっては沖縄といえばなんと言ってもまず食べ物!そして酒!である。だから、この筆者とはとても意見が合う。私も大学生の時に始めて沖縄に行き、その時食べた山羊汁の臭さにやら…

純文学の読み心地『重力ピエロ』

母親がレイプされた結果生まれた“春”、かたっくるしく言えば、その春の存在の苦悩をめぐる物語ということになるのだろう。それは母親と祖父との不義の結果生まれた謙作を主人公にした志賀直哉の『暗夜行路』を思い出させる。謙作は春よりもはるかに鬱屈とし…

SFファンなら…『オルタード・カーボン』

人間の個性/アイデンティティがスタックと呼ばれる記憶素子に詰め込まれ、それが脳に接続される。そのスタックを入れ替えれば、スリーブと呼ばれる肉体を代えても人格は変化しない。そんな未来世界の設定がまず面白い。脳移植などによって不死の肉体を手に…

暖かさがここにある『チルドレン』

伊坂幸太郎は時間を自由に旅する。この5つの短編を再構成した長編小説のようなものでも、ふたつの時間が交互に登場する。そのふたつの時間をつなぐのは陣内という人物。大学生の頃の陣内は盲目の永瀬という主人公の友人として登場し、家裁の調査官となった陣…

純物語小説『ラッシュライフ』

まずは平行した時間の流れの中で、いくつかの出来事が置き、それぞれの流れの主人公のキャラクターが明らかになって行くという展開、それぞれが基本的には独立しているのだけれど、時折それらが交錯し、影響しあっているように見える。 それだけならばよくあ…

SFを越えた名作『夜の大海の中で』

地球外生命体と接触するというのはSFの王道中の王道、SFといえば、宇宙人との遭遇と言っても過言ではないほどである。そして、この小説もその地球外生命体との接触を描いた小説であるわけだが、しかしいわゆる宇宙人ものとはまったく違っている。主人公…

『kihachi フォービートのアルチザン 岡本喜八全作品集』

岡本喜八の全て、と言ってしまっては大げさだが、とりあえずこの作品が出版された92年当時までの全てを収録しようという意欲は感じられる。豊富なデータとインタビューで岡本喜八像を明らかにしようという姿勢はとても面白い。 作品の解説は微に入り細を穿ち…

『タイタンの妖女』

運命とは… この物語は運命に翻弄される一人の男と、その運命を見通すことが出来るもう一人の男の物語である。基本的に、その運命に翻弄される男マラカイ・コンスタントはその運命に従順で、はむかおうとはしない。それに対して運命に翻弄されるもうひとりビ…

『ヘチマくん』

ダメ男を書かせたら右に出るものはいない。遠藤周作はそんな作家かもしれない。遠藤周作といえば、シリアスな小説(特にキリスト教関係)とユーモア小説、そして狐狸庵先生もののエッセイという3種類の作品を書き分ける器用な作家だが、この作品はそのうち…

『肖像のなかの権力』

図像の持つ力とは、かくも大きなものなのか。 柏木博氏は現代においてデザインを論ずる論者の中でも群を抜く説得力と情報量を持っていると思う。この本の表紙にもなっている水平の写真は日本が第二次大戦中に対外宣伝用に制作していたグラフ誌『FRONT』…

『オーデュボンの祈り』

不思議なリアリズム この物語の中心にあるのは荻島という不思議な島、そしてその島にやってきたよそ者の伊藤であるわけだが、その島の中心的な存在というべきしゃべるカカシの優午が殺され、その謎を解くというのがストーリーの中心になる。しかしよく考えて…

『毎日かあさん カニ母編』

おもしろくってあたたかい 私はあまりマンガは読まないのだが、西原理恵子は好き。西原理恵子は『ぼくんち』系統のホロリとさせるマンガを描く一方で『まあじゃんほうろうき』のようなギャンブルマンガや『鳥頭紀行』のようなルポものではとにかく毒舌を吐く…

『しあわせの理由』 グレッグ・イーガン著 創元SF文庫 2003年

古本屋で購入 グレッグ・イーガンの日本オリジナル短編集の2冊目。作品の発表年代は1990年から99年まで90年代全体を網羅している。グレッグ・イーガンが活躍し始めたのは80年代の末だから、イーガンが作家として成長して行った90年代のエッセンスを集めた作…

『アルファ系衛星の氏族たち』フィリップ・K・ディック著 創元SF文庫 1992年

古本屋で購入他にいろいろ読まなきゃいけないものがあって、こんな文庫を読むのに2週間もかかってしまった。途中で一週間ばかり時間が空いたせいで話がわからなくなって、ちょっと戻って読み直したせいもあるけど。 ともかく、話はアルファ星という太陽系外…

『落語三百年 昭和の巻』 小島貞二著 毎日新聞社 1979年

古本屋で購入 『落語三百年』3巻本の3冊目。話は昭和となってグッと身近になる。最初の「戦争と落語」という章で戦争が落語という芸能にまで及ぼした影響が語られ、そのあとでいまはもう古典の仲間入りをした「代書」など昭和の代表的な新作落語を収録して…

『グッドバイ・ポストモダン』 隈研吾著 鹿島出版会 1989年

古本屋で購入 建築家・隈研吾がコロンビア大学に客員研究員として赴任していた一年間にアメリカの名だたる建築家たちにしたインタビューをまとめたインタビュー集。87年を80年代の終わり、ポストモダンの終わりと考え、その時代を振り返るという形で構成して…

『落語三百年 明治・大正の巻』 小島貞二著 毎日新聞社 1979年

*オリジナルは1966年 古本屋で購入 三巻本の『落語三百年』の二巻目。明治から大正期の落語会の話と、その頃の落語の速記を載せている。この頃になると、速記も比較的多く残り、部分的にはレコードなんかもあるので、実際に当時の様子がうかがい知れて面白…

"Frederick Wiseman", edited by Thomas R. Atkins, Monarch Film Studies, 1976

海外のネット古書店で購入 世界でも屈指のドキュメンタリー作家フレデリック・ワイズマンのインタビューを中心に、編者であるアトキンスの論考と各作品のレビューを載せたアンソロジー。出版は1976年ということで、作品数も9本しかなく(現在はおよそ40本)…

『1984年』 ジョージ・オーウェル著 ハヤカワ文庫 1972年

古本屋で購入 いわずと知れたSFの古典的名著。オリジナルは1949年に書かれ、35年後の世界を想定し、世界が3つの社会主義超大国によって成り立っている世界を描き出した。テレスクリーンという双方向のスクリーンによって行動のすべてが監視される社会、主…