『ヘチマくん』

ダメ男を書かせたら右に出るものはいない。遠藤周作はそんな作家かもしれない。遠藤周作といえば、シリアスな小説(特にキリスト教関係)とユーモア小説、そして狐狸庵先生もののエッセイという3種類の作品を書き分ける器用な作家だが、この作品はそのうちのユーモア小説である。
主人公のヘチマこと豊臣鮒吉は豊臣秀吉の末裔ということで、ナポレオンの末裔を主人公にした『おバカさん』とかなり似た作品ということが出来よう。内容の方も、間抜けだけれど正直な主人公が面倒に巻き込まれながらもその人のよさで助かったり、周りを助けたり、周りの人に好かれたりというドタバタ喜劇である。
どうってことないといえばどうってことない話なのだが、顔がヘチマのように長い主人公がどうも魅力的に見えてきてしまい、ぐんぐん物語りに引き込まれる。この主人公はいわゆる「白痴」(ドストエフスキーの『白痴』のムイシュキン公爵を雛形とする聖なる白痴というキャラクターのタイプ)のバリエーションだが、ただのバカというのではなく、自分がお人よしなことを知っていて、しかしそんな自分を仕方ないと考えてしまうそんないい人なのだ。
そして、彼を取り巻く人々も悪人のようでいながらどこか人のよさを持っていて、完全な悪人というのはいない。そのほのぼの感は今から見るとなんとものんきなものだが、それがむしろいいのだ。この作品が書かれたのは高度成長期、生き馬の目を抜く世の中にあってこのようなほのぼのとした物語が人々を癒すのは今も昔も変わらないようだ。

備考
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概略
勤務先の倒産でプータローとなった豊臣秀吉の末裔“ヘチマくん”こと豊臣鮒吉は底抜けに善良で世渡りベタ。そんな彼が大学時代の友人“ドクダミ”に出会って、いろいろと面倒なことに巻き込まれるという話。
リンク
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