『しあわせの理由』 グレッグ・イーガン著 創元SF文庫 2003年

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)古本屋で購入
グレッグ・イーガンの日本オリジナル短編集の2冊目。作品の発表年代は1990年から99年まで90年代全体を網羅している。グレッグ・イーガンが活躍し始めたのは80年代の末だから、イーガンが作家として成長して行った90年代のエッセンスを集めた作品集ともいえるかもしれない。そしてまたイーガンのいまのところの代表作である『順列都市』につながると思える<コピー>についての短編「移相夢」など、後の長編につながるアイデアが短編として読めるのも面白い部分である。
この短編集には9つの作品が載っているが、その質はどれも高く、バリエーションにも富んでいる。グレッグ・イーガンらしいコンピュータ・サイエンスを利用したSF作品はさすがとうならせるし、遺伝子学や脳神経科学といった医学的なサイエンス・フィクションを駆使するのもお手の物だ。
だが、この短編集にはそんなイメージとは違う様々な作品が収められている。一番印象に残ったのは「チェルノブイリの聖母」という作品で、これはオークションで落札した絵画がクーリエによって運ばれる途中に紛失し、クーリエも殺されてしまったというすごくオーソドックスなサスペンスの形をとった話である。もちろん、これもSF的な展開を見えるだろうことは予想できるし、実際にそうなるのだが、このサスペンスとしての展開力からは、SF作家である以前にストーリーテラーであるイーガンの実力が感じられる。
他の作品も、意表をつくアイデアと、ストーリーテリングのうまさで読んでいるうちにぐんぐんと引き込まれるのだが、逆にどの作品も結末が弱いという気もする。一応、結末にはなっているのだけれど、余韻があるというよりは尻切れトンボというか、何かもやもやしたものが残ったまま終わってしまうという印象が強い。これはおそらくイーガンという作家が基本的に長編作家であり、短編は長編のアイデアを物語化したものに過ぎないからだろう。彼の頭の中には、これらの短編が長編に組み込まれるときのアイデアがどこかにあり、そのつながりを考えてしまうがゆえに、短編としての完結性が弱くなってしまうのではないか。

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「ほぼ日刊 日々是映画」たち

5/23
ジョン・カーペンター監督『ザ・フォッグ
出演:エイドリアン・バーボージェイミー・リー・カーティス
http://www.cinema-today.net/0505/23p.html

5/22
フランソワ・デュペイロン監督『イブラヒムおじさんとコーランの花たち
出演:オマー・シャリフ、ピエール・ブーランジェ
http://www.cinema-today.net/0505/22p.html

5/21
ラモン・サラサール監督『靴に恋して』
出演:アントニオ・サン・フアン、ナイワ・ニムリ
http://www.cinema-today.net/0505/21p.html

5/20
アラン・シャバ監督『ミッション・クレオパトラ
出演:モニカ・ベルッチ、クリスチャン・クラヴィエ、ジェラール・ドパルデュー
http://www.cinema-today.net/0505/20p.html