男はロマン、女は…『旅は道づれガンダーラ』

女優・高峰秀子とその夫・ドッコイ松山善三井上靖らにほいほいとついて行ったアフガニスタンパキスタンの旅の旅行記。善三パートが7割、秀子パートが3割という感じで、大体交互に書いている。
夫の善三さんのほうが脚本家であり映画監督であるわけだから、文章もうまそうなものなのだけれど、実際は、女優業から退いてエッセイストを本業としている秀子さんの方がエッセイには一日の長がある。だから文章も格段に面白い。軽妙にして読者の興味をくすぐるつぼを心得ている。
これに対して善三さんは読者への親切なのか何なのか、ガンダーラ美術やらなにやらの解説に多くのページを割く。しかし、旅の感動というモノはそれを見聞きする人にはなかなか伝わらないもので、善三さんの文章もその例に漏れない。彼は感動やさんで、いろいろと感動しているという事はわかるのだが、その感動を共有する事はなかなか出来ない。
まあそれはどだい無理な話なので、ふたりの文章を読み比べながらその違いを楽しむ。一番の違いは、善三さんはロマンティストだということだ。バスに乗り合わせた(?)ハエに並ならぬ興味を寄せてみたり、旅先で出会う人々や仏像などに想いを馳せてみたり、とにかく男はロマンなのだ。
この夫婦は対照的な性格のように見えるけれど、とても仲がよろしい。この旅の頃で50代ということだが、それでこれだけ仲がよいのだから、それは素晴らしいことだと思う。おふたりとももう80代になったかなろうかというところだと思うが、今もお元気で活躍されている。もう海外に旅は出来ないかもしれないが、ふたりの楽しい暮らしに触れられる文章を綴り続けて欲しい。