『肖像のなかの権力』

図像の持つ力とは、かくも大きなものなのか。
柏木博氏は現代においてデザインを論ずる論者の中でも群を抜く説得力と情報量を持っていると思う。この本の表紙にもなっている水平の写真は日本が第二次大戦中に対外宣伝用に制作していたグラフ誌『FRONT』の創刊号の表紙に使われた写真であるのだが、この『FRONT』という雑誌を使って、写真という図像が持つメッセージ性と、それを伝える力の強さを論じた部分には特に説得力がある。1枚の写真でも撮り方ひとつでその持つ意味が変わり、複数の写真を組み合わせればさらに効果的に意味を伝えることが出来る。その構造をわかりやすく説明する。その上で肖像写真が持つ「アウラ」の問題にまで切り込んで行く。
それ以外にも、『怪人二十面相』の名探偵小林少年を足がかりに、当時の子供部屋と子供像、さらには家族の問題を論じていったり、明治天皇の肖像写真とそれ以外の肖像写真との類似性から家父長制の意味を論じてみたり、とにかく写真を手がかりとして近代日本の構造を解きほぐして行くその手法が非常に鮮やかだ。
結論じみたことは言わないので、わかりやすさという点から言うとそれほどわかりやすくはないのかもしれないが、これは何かを理解するための本ではなく、何かを考え始めるための本だ。われわれが日常生活の中で何気なく見ている写真や絵葉書やポスターや雑誌というものがわれわれに押し付ける意味、そしてその意味を伝えている構造、それらを理解することによって、そのような意味の押し付けに対抗することが出来るし、あるいは逆にそれを利用することも出来る。
最後の章(この章はハイテックの速さを論じていて、この文章自体がその速さのせいで時代遅れになってしまっているがそれはそれで意味深い)で著者が言っているように「日々の生活のなかでほとんど気づかないうちに私たちの意識のなかに滑り込み、思考や感性に直接影響を与えてしまう、ものとそれにまつわるデザインの力に匹敵するものは他に多くあるまい」と思う。

備考
古本屋で購入
概略
デザイン評論家として著名な柏木博がグラフィズムを切り口として近代日本を論じた本。いくつかの雑誌の掲載された論考に書き下ろしたものを加え、1987年に単行本化されたものの文庫版。
リンク
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061594141/hibikoreeiga-22


「ほぼ日刊 日々是映画」たち

6/1
マイケル・レンベック監督『コニー&カーラ』
出演:ニア・ヴァルダロス、トニー・コレットデヴィッド・ドゥカヴニー
http://www.cinema-today.net/0506/01p.html

5/31
マノエル・デ・オリヴェイラ監督『家宝』
出演:レオノール・バルダック、レオノール・シルヴェイラ
http://www.cinema-today.net/0505/31p.html