『タイタンの妖女』

運命とは…
この物語は運命に翻弄される一人の男と、その運命を見通すことが出来るもう一人の男の物語である。基本的に、その運命に翻弄される男マラカイ・コンスタントはその運命に従順で、はむかおうとはしない。それに対して運命に翻弄されるもうひとりビアトリスは運命に懸命にはむかおうとする。しかし、どちらも結局運命に逆らうことは出来ないのだ。マラカイもビアトリスも、運命を見通すことが出来る男ラムフォードの予言通りの運命をたどって行く。
しかし、この物語が語るのはそのような運命論ではない。この運命に従順だったマラカイと運命にはむかおうとしたベアトリス、このふたりははたして同じ人生を送ったのかどうかを問おうとしているのではないかと思うのだ。
そして、運命を見通すことが出来る男ラムフォードもまた自分の運命に逆らうことは出来ない。見通すことが出来る運命に逆らうことが出来ないというのはあまりに悲惨な運命ではないか。
とすると、そのラムフォードが未来のことをわざわざマラカイとビアと知るに告げたのは何故なのか。と考えてみるが、ラムフォードはわれわれとは違って単時点的な時間感覚では生きていないから、彼にとっての運命とはすでに起こったことであり、それは変えられないことなのではないかと思う。その単時点的ではない時間感覚というの(この作品の中で時間等曲率漏斗と呼ばれるもの)がなかなかつかみにくいために感覚的にはわからないのだが、彼はすでに絶望とも希望とも無関係のところに存在しているのではないのだろうか。

この物語は主人公マラカイ/アンクの冒険物語としては非常に面白い。そしてそれにこの運命論が関わってくるわけで、それがまた面白いということになるのだが、よく考えてみるとよくわからない。そのようによくわからないのが運命ではあるのだが、なんだか釈然としない気持ちも残る。
それを解く鍵はマラカイの視線から構築されているこの物語を、ラムフォードの視線から構築しなおすことにあるのではないかと思う。だがしかし、今書いたようにラムフォードの時間感覚はなかなか感覚的に捉えにくいから、決して簡単ではない。それが作品の深みなのか、ヴォネガットのマジックなのかはわからないが、ともかく私はその謎めいた部分にひきつけられた。


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「ほぼ日刊 日々是映画」たち

6/15
マイケル・ラドフォード監督『イル・ポスティーノ』
出演:マッシモ・トロイージ、フィリップ・ノワレ
http://www.cinema-today.net/0506/15p.html

6/14
ウォルター・サレス監督『モーターサイクル・ダイアリーズ
出演:ガエル・ガルシア・ベルナルロドリゴ・デ・ラ・セルナ、ミア・マエストロ
http://www.cinema-today.net/0506/14p.html

6/13
トニー・スコット監督『マイ・ボディガード
出演:デンゼル・ワシントンダコタ・ファニングクリストファー・ウォーケン
http://www.cinema-today.net/0506/13p.html