「桜の森の満開の下」 坂口安吾著 1947年 『坂口安吾全集5』(ちくま文庫)所収

坂口安吾全集〈5〉 (ちくま文庫)桜の季節ということで、急に読みたくなって、本棚の奥のほうに眠っていたのを引っ張り出してきました。
「桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になります」という背筋がぞくっとするような表現に桜が持つ狂気の芽を感じる。それはつまり、人は桜の放つ狂気の匂いに引き込まれないように集団で桜の木の下に陣取るということで、花見とはそのような防御策が嵩じたものだということだ。その真偽はともかく、この短編からは桜と人間の狂気の関係を非常に鋭く繊細に描く。この小説を読んでいると、薄闇にぼんやりと浮かぶ満開の桜の森が眼に映るようで、そしてそこに足を踏み入れようとする自分が狂気に陥りそうになるのが手に取るようにわかるのだ。
坂口安吾の文体は人の心にスーッと落ちてきて、心のそこにある何かをグッと捕まえる。この作品は安吾のそのような特徴が非常に強く出ている。まさに満開の桜が夜空に映える今の季節に読むと、本当にいい。

桜の森の満開の下 (講談社文芸文庫)私が持っているのはちくま文庫の全集版ですが、講談社文芸文庫からこの「桜の森の満開の下」表題作となっている短編集も出ています。こちらのほうが手に入りやすいかと思いますが、ちくま文庫のほうは表紙が横尾忠則で独特の雰囲気があって私は好きです。

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