『月曜日は土曜日に始まる―若い科学者のための物語』 アルカージ&ボリス・ストルガツキイ著 群像社 1998年

月曜日は土曜日に始まる―若い科学者のための物語プログラマーである主人公は友人と落ち合うためレニングラードから地方都市へ向う。その途中で拾った二人の男に紹介された宿泊場所に落ち着いた主人公は、そこで現実とも幻想ともつかない不思議な体験をする。そして、いつのまにやらそこに現れた人たちのペースに巻き込まれ、プログラマーを探しているという彼らの手伝いをすることに…
ストルガツキイ兄弟(あるいはストルガツキー兄弟)は旧ソ連のSF作家、この作品が描かれたのは1965年といわれ、このころまでは人気作家として活躍していたが、60年代の後半辺りから発禁処分となる作品が相次ぎ、本国では事実上活動停止を余儀なくされる。しかし、79年にタルコフスキー監督によって『ストーカー』が作られ、国際的評価を受けると、ペレストロイカとともに復権した。
この作品を読むと、西側諸国のSFとはかなり違っているという印象を受ける。どこが?といわれると困るのだが、この作品の印象は、ここで描かれている世界がグレーの色彩を帯びた印象だということだ。SFの多くはある種の冒険が伴っており、この作品もそれは変わらない。しかしその冒険というのが、非常に不思議なもので、わくわくするにはするのだが、決して明るいものではない。しかしだからといって絶望的な未来像を描いているというものでもない。
この作品は魔術的な方法で世の中を描写し、表現しているように見えるのだ。副題に「若い科学者のための物語」とつけられているように、体裁としては魔法と科学を結びつけ、魔法が科学的に分析できるものとして扱われているわけだが、もちろんそこの部分は空想科学的な説明に過い。この部分こそがこの映画のSF的な面白さの厳選であり、同時に含蓄を感じさせる部分である。体制批判という明確なものまでは行かないが、魔術を科学で説明しようとしても説明できない部分に“暗さ”を感じるのだ。この“暗さ”というのはこの作品の舞台となるMYKKの建物の13階から上には誰も入ったことがないということで顕在化されている。この13階以上の部分というのは穿った見方をすれば世界の暗部、政治の伏魔殿の暗喩と見ることもできる。
旧ソ連の作品ということもあってとっつきにくい部分もあることは確かだが、そのとっつきにくさの向こうに何か果てしない魅力があるような感じがする。そのような作品。
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3/14の「ほぼ日刊 日々是映画」
宮崎駿監督『紅の豚
http://www.cinema-today.net/0503/14p.html