『現代落語論 笑わないで下さい』立川談志著 三一書房 1965年

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現代落語論 (三一新書 507)立川談志が29歳のときに書いた初のエッセイ。落語が大好きだった子供時代から、真打になるまでの自伝的な記述と、落語について思うことをとりとめなく書いたもの。どのような落語が面白いと思うのかという実例を交えながら書いているので、読みながら顔がにやけてしまうわかりやすさもあるが、いかんせん書かれたのが40年前なので、人名などはとんとわからない。

この本の副題になっている「笑わないで下さい」というのは、今の(つまり1965年当時の)寄席の客が笑いすぎで、そのせいで噺家は甘やかされて、芸を磨くことが出来ないという主張である。つまり、昔の客は「笑ってなんかやるものか」という気概をもって寄席に来て、それでも笑わせてくれる噺家に賛辞を送ったのに、今の客はそもそも笑いに来ているから、たいして面白くなくても笑い、それはそれでありがたいのだが、いったいどうやって芸を磨けばいいのかわからない、というのである。
「昔はよかった」というノスタルジーでしかないという要素も多分にあるが、談志師匠はそこに自覚的で、どうしたら古典落語というものを現代に通じる芸にできるかということを真摯に考えているということが文章からひしひしと伝わってくる。
この当時から先輩からは生意気といわれても、自分の道を信じて突き進んだ背景には、そのような真摯な姿勢と、自信があったのだろうと思う。談志が弟子の真打昇進に関して、落語協会と喧嘩して脱退したのは、83年、この本を書いてからはるか18年後のことだが、この本ですでに真打昇進制度に対して不満を述べている(志ん朝は5年かそこらで真打になったのに、自分は11年かかったと文句を言っている)し、タレントのようにTVに出ることにも言い訳として論理をくっつけている。

それ以外では、その当時のお笑い界の現状が関東、関西あわせて紹介されているし、その中での落語の位置づけ、他の芸との関係などを彼なりの解釈でじっくりと書いているのもいい。その当時、落語がちょっとしたブームだったらしいのだが、談志師匠はそのブームは上っ面なものに過ぎず、すぐに下火になると睨んでおり、そんなブームに乗ってちゃらちゃらするよりもしっかりと芸を磨かなきゃならないなどということを言っている。そうじゃなきゃこのままでは落語は駄目になってしまうと。
その原因として客の質を第一に上げている。この辺りは、現在のお笑いブームと微かな落語ブームの現状と重ね合わせて、非常に興味深く読んだ。今のお笑いブームで出てきた若手のお笑いなんてーのは、まぁ半分ぐらいはちっとも面白くない。出たては面白くても、まあ1年もすると、面白いネタが尽きてしまうのかこっちが飽きるのか今ひとつ笑えなくなってしまったりもする。
私が寄席などに行き始めたのはここ1年くらいのものだが、そこでも、客は笑いすぎだと感じる。まあ、笑いに来てるんだから笑って何が悪いということだろうが、その笑いでこちらは興ざめしてしまうこともあるし、面白くもないところでやたらめったら笑ったら、噺全体の面白みがそがれてしまうというものだ。落語というのは笑い話ではなく、あくまでも落げ(さげ)のある話でしかないのだし、中にはほとんど笑うところなどない話もあるのに、そんな客はそのちょっとしたくすぐりで爆笑して、話の空気を壊してしまう。
わたしも「笑わないで下さい」という談志師匠の意見には賛成だ。でも、客が少ししかいない小屋で、一生懸命話している噺家を前にして笑わずにすごすというのもなかなか気狭なものだ。それでも、落語を愛するがゆえに、愛想笑いはしない。そんな強い気持ちで寄席に行こうと思った。

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