『落語新幹線』 三遊亭圓歌著 桃源社 1975年

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現・落語協会会長、三代目三遊亭圓歌が40代の頃に噺を集めた落語集。副題が「三代目三遊亭圓歌独演会」となっているとおり、11の演目と間に挟まれた8編の短いエッセイで、この当時の圓歌のすべてを込めたとでもいうような力のこもったものになっている。
三遊亭圓歌は今はもう70歳を越え、高座に上がることも少なくなったが、もともとは新作派の筆頭、新作落語で笑いを誘った爆笑王だった。この落語集ではその新作落語を中心に古典もいくつか加えたという構成になっている。この本によれば圓歌を有名にしたのは「授業中」や「月給日」といった新作落語で、それもこの本に収録されている。
この本を読む限りでは、圓歌新作落語の特徴は展開の面白さにある。そもそも話を知らないということもあるだろうが、ぽんぽんとテンポよく話が展開していくので、クスグリが面白いとかどうこうということ以前に、その噺自体が物語として面白くてグッと引き込まれてしまう。私は、この本に収録されている新作はどれも聞いたことがないので、この後どんな展開になるのかというストーリーの興味だけで、まるで小説を読むかのように読み進んでしまった。これを高座で聞けばそれでまた新鮮な面白さがあるのだろうが、文章でもその面白さはかなり伝わってくる。
落語といえば古典が基本だから、新作落語の本というのはあまりない。本に出来るような新作を作ることが出来る噺家というのがなかなかいないということもあるだろうが、やはりどこかで「落語といえば古典」という意識があって(私もそうだが)、初心者ならまず古典の世界を知ろうという気持ちになるだろうし、玄人ならそれぞれの噺家の噺がもともとの噺や師匠の話をどのようにアレンジしたものなのかということを知りたいということになるだろうから仕方のないことだ。でも、この本の面白さを考えると、もっと新作落語の本が出てきてもいいような気がする。落語は伝統芸能ではあるけれど、あくまでも大衆文化、誰でもわかるものであって欲しい。しかし、70年代ならまだ、伝統的な落語の世界観を維持しながら、その時代に通じる話を作るという難しくとも不可能ではなかっただろうが、今となってはほとんど不可能に近いだろうと思う。しかしそれでも、やはりこの70年代の圓歌くらいに面白い新作派が現代に現れて欲しいと思う。喬太郎か歌武蔵(あ、圓歌の弟子だ)あたりに、そんなブレイクを期待したい。
本の話から外れてしまったが、この本はそんな新作落語の可能性を示しているという点で凄く面白い。

3/7の「ほぼ日刊 日々是映画」
今村昌平監督『果しなき欲望』
出演:長門裕之中原早苗殿山泰司渡辺美佐子
http://www.cinema-today.net/0503/07p.html