『ダブル・スター』 ロバート・A・ハインライン著 創元SF文庫 1994年

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1964年に『太陽系帝国の危機』という題で同文庫から発売されていた作品の改題・新訳版。売れない役者であるロレンゾが見知らぬスペースマンにその演技力を買われ、あれよあれよという間に火星へと向かう宇宙船に…
SFの巨匠の一人ハインラインの才能は主にストーリーテリングに発揮されていると思う。ディックの才能が独特の世界観の構築に、アシモフの才能が科学的想像力に発揮されるのと同じように。特に、冒険を題材とした作品では、魅力的な主人公と物語の面白さは他のSF作家から群を抜き、それはSFであることを差し引いても充分に楽しめるものだ。
その原則はこの小説にもピタリと当てはまる。主人公のロレンゾの魅力、そして地球、火星を飛び回るワクワクするような冒険の魅力、その物語は今の科学の水準からすると空想もいいところ、まったくありえないような内容なのだけれど、それでもついついその物語に引き込まれてしまい、心はロレンゾとともに宇宙船の中に入り込む。そのストーリーテリングの妙は、さすがはハインラインだ。
そして、ハインラインの小説は政治的な含意を含むことも多い。この作品でも地球人と火星人という問題を通して人種差別を批判するという立場に立っている(この作品が書かれたのは1956年で、まさに公民権運動が盛んだった時期である)。もちろん、だからと言ってセクト的なアジテーションというわけではなく、読者がちょっと立ち止まって、現実的な問題に頭を傾ける間を与えるという程度のものではあるのだが。
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