『スピリット・リング』 ロイス・マクマスター・ビジョルド著 創元推理文庫 2001年

スピリット・リング (創元推理文庫)古本屋で購入
「マイルズ・ネイスミス」シリーズで有名なロイス・マクマスター・ビジョルド作のファンタジー
物語の舞台は、中世のヨーロッパ、金細工師で魔法使いのプロスペロ・ベネフォルテの娘フィアメッタは女の子であることを理由に魔法使いになることを許されないが、魔法の才能を持ち、父親の手伝いもしていた。そんなプロスペロが仕えるモンテフォーリア公の娘ユリアが隣国のロジモ公フェランテと結婚することが決まり、プロスペロとフィアメッタはその祝賀会に魔法のかかった塩入れを持って行く。しかし、そのロジモ公の指には「スピリット・リング」という指輪がはめられており… という話。
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LMビジョルドの作品は、日本で翻訳が出ているものはほとんどがマイルズのシリーズの一部で、そのシリーズからはみ出すものはこの『スピリット・リング』とマイルズ・シリーズより前の時代の外宇宙での物語である『自由軌道』しかない(ただ、この作品はマイルズ・シリーズの世界とつながっているので、シリーズの一部とされることもある)。原著では"The Curse of Chalion","Paladin of Souls"と続くファンタジーのシリーズものが書かれているらしいが、ともかく、ビジョルドといえばマイルズというわけで、この作品もそのマイルズ・シリーズとの対比で見てしまうのは仕方ない。
そして基本的な構造は、マイルズ・シリーズとそれほど変わらないと言ってもいいだろう。それは、この物語の主人公フィアメッタが「女の子」という弱点を克服して活躍する冒険物語であるからだ。マイルズ・シリーズもマイルズがその身体的欠陥という弱点を克服して活躍する。つまり、ビジョルドは弱点やコンプレックスのあるような主人公がヒーローになるという物語が好きなのだろ言うということだ。
確かにその物語は魅力的だ。読んでいるとあっという間にフィアメッタに同一化して、物語の世界を歩き始める。そして物語はぐんぐん進む。ビジョルドの物語のスピードはかなりのもので、本を読むスピードもぐんぐん上がる。特に中盤はページをめくるのもまどろっこしいほどにスピード感にあふれている。その辺りはさすがビジョルド、何を読んでも面白い。
しかし、やはり問題はこれがSFではないということ。SFならば、すべてのことに一応の科学的(あるいは空想科学的)説明がつくのだけれど、これはファンタジーで扱っているのは魔法だから、緻密な説明などは必要ない。それを受けてか、プロスペロが残した書物の詳しい内容というのも記されていない。だから、このあたりで完全にフィアメッタの立場に入り込めないという弱点が出てきてしまうというのは否めない。だから、終盤のクライマックスに来てグッとのめりこむよりも、何か幻惑されているような感じがして少々戸惑う。やはり、ファンタジーよりもSF作品のほうに惹かれるなぁ

ところで、このプロスペロ・ベネフォルテにはモデルがいて、中世イタリアの彫刻家チェリーニという人らしい。この物語に出てくる金の塩入れやペルセウスのブロンズ像というのも実在していて、現在はウィーン美術史美術館に所蔵されている。
http://www.wga.hu/frames-e.html?/html/c/cellini/index.html

3/4の「ほぼ日刊 日々是映画」
野村芳太郎監督『砂の器
出演:丹波哲郎森田健作加藤剛
http://www.cinema-today.net/0503/04p.html

3/4の「日本名画図鑑」
今村昌平監督『にっぽん昆虫記』
出演:左幸子長門裕之
http://www.cinema-today.net/magazine/meiga.html